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# パッチメソッドの解決
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`Nat`は0以上の`Int`、つまり`Int`のサブタイプである。
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本来`Nat`はPythonのクラス階層には存在しない。Ergはこのパッチのメソッドをどうやって解決するのだろうか？
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```erg
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1.times do
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log "hello, world"
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```
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`.times`は`NatImpl`のパッチメソッドである。
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`1`は`Int`のインスタンスであるので、まず`Int`のMRO(Method Resolution Order)を辿って探索する。
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Ergは`Int`のMROに`Int`, `Object`を持っている。これはPython由来である(Pythonにおいて`int.__mro__ == [int, object]`)。
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`.times`メソッドはそのどちらにも存在しない。ここからは、そのサブタイプの探索に入る。
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~
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整数は明らかにその上位型に実数や複素数、ひいては数全体を持つはずだが、Pythonと互換性をもつレイヤーではその事実は現れない。
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だが実際にErgでは`1 in Complex`や`1 in Num`は`True`となる。
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`Complex`に至っては、`Int`と継承関係にないクラスであるのに、型として互換性があると判断されている。一体どうなっているのか。
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~
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あるオブジェクトに対して、その属する型は無数に存在する。
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だが実際に考えなくてはならないのはメソッドを持つ型、すなわち名前を持つ型のみである。
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Ergコンパイラは、全ての提供メソッドとその実装を持つパッチ・型のハッシュマップを持っている。
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このテーブルは型が新たに定義されるたびに更新される。
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```erg
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provided_method_table = {
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...
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"foo": [Foo],
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...
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".times": [Nat, Foo],
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...
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}
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```
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`.times`メソッドを持つ型は`Nat`, `Foo`である。これらの中から、`{1}`型に適合するものを探す。
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適合判定は二種類ある。篩型判定とレコード型判定である。篩型判定から行われる。
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## 篩型判定
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候補の型が`1`の型`{1}`と互換性があるか確認する。篩型の中で`{1}`と互換性があるのは、`{0, 1}`, `0..9`などである。
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`0..1 or 3..4`, `-1..2 and 0..3`などの有限要素の代数演算型は、基底型として宣言すると篩型に正規化される(つまり、`{0, 1, 3, 4}`, `{0, 1, 2}`にする)。
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今回の場合、`Nat`は`0.._ == {I: Int | I >= 0}`であるので、`{1}`は`Nat`と互換性がある。
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## レコード型判定
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候補の型が1のクラスである`Int`と互換性を持つか確認する。
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その他、`Int`のパッチである、またその要求属性を`Int`がすべて持つ場合も互換性がある。
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~
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というわけで、`Nat`が適合した。ただ`Foo`も適合してしまった場合は、`Nat`と`Foo`の包含関係によって判定される。
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すなわち、サブタイプのメソッドが選択される。
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両者に包含関係がない場合は、コンパイルエラーとなる(これはプログラマーの意図に反したメソッドが実行されないための安全策である)。
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エラーを解消させるためには、パッチを明示的に指定する必要がある。
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```erg
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o.method(x) -> P.method(o, x)
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```
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## 全称パッチのメソッド解決
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以下のようなパッチを定義する。
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```erg
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FnType T: Type = Patch T -> T
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FnType.type = T
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```
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`FnType`パッチのもとで以下のようなコードが可能である。これはどのように解決されるのだろうか。
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```erg
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assert (Int -> Int).type == Int
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```
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まず、`provided_method_table`には`FnType(T)`が以下の形式で登録される。
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```erg
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provided_method_table = {
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...
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"type": [FnType(T)],
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...
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}
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```
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`FnType(T)`のパッチする型が適合するかチェックされる。この場合、`FnType(T)`のパッチ型は`Type -> Type`である。
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これは`Int -> Int`に適合する。適合したら、単相化を行って置換する(`T -> T`と`Int -> Int`のdiffを取る。`{T => Int}`)。
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```erg
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assert FnType(Int).type == Int
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```
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