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タプル
タプルは配列と似ていますが、違う型のオブジェクトを保持できます。 このようなコレクションを非等質なコレクションと呼びます。対して等質なコレクションには配列、セットなどがあります。
t = (1, True, "a")
(i, b, s) = t
assert(i == 1 and b == True and s == "a")
タプルt
はt.n
の形式でn番目の要素を取り出すことができます。Pythonと違い、t[n]
ではないことに注意してください。
これは、タプル要素のアクセスはメソッド(配列の[]
はメソッドです)というより属性に近い(コンパイル時に要素の存在がチェックされる、nによって型が変わりうる)ためです。
assert t.0 == 1
assert t.1 == True
assert t.2 == "a"
括弧()
はネストしないとき省略可能です。
t = 1, True, "a"
i, b, s = t
タプルは違う型のオブジェクトを保持できますが、そのかわり配列のようなイテレーションができなくなります。
t: ({1}, {2}, {3}) = (1, 2, 3)
(1, 2, 3).iter().map(x -> x + 1) # TypeError: type ({1}, {2}, {3}) has no method `.iter()`
# すべて同じ型の場合配列と同じように`(T; n)`で表せるが、これでもイテレーションは出来ない
t: (Int; 3) = (1, 2, 3)
assert (Int; 3) == (Int, Int, Int)
ただし、非等質なコレクション(タプルなど)はアップキャスト、Intersectionなどによって等質なコレクション(配列など)に変換できます。 これを等質化といいます。
(Int, Bool, Str) can be [T; 3] | T :> Int, T :> Bool, T :> Str
t: (Int, Bool, Str) = (1, True, "a") # non-homogenous
a: [Int or Bool or Str; 3] = [1, True, "a"] # homogenous
_a: [Show; 3] = [1, True, "a"] # homogenous
_a.iter().map(x -> log x) # OK
t.try_into([Show; 3])?.iter().map(x -> log x) # OK
ユニット(Unit)
要素が0個のタプルはユニットと言います。ユニットは値ですが、自身の型そのものも指します。
unit = ()
(): ()
ユニットはすべての要素0のタプルのスーパークラスです。
() > (Int; 0)
() > (Str; 0)
このオブジェクトの使いみちは、引数、戻り値がないプロシージャなどです。Ergのサブルーチンは、必ず引数と戻り値を持つ必要があります。しかしプロシージャなどの場合、副作用を起こすだけで意味のある引数・戻り値がない場合もあります。その際に「意味のない、形式上の値」としてユニットを使うわけです。
# ↓ 実はこの括弧はユニット
p!() =
# `print!`は意味のある値を返さない
print! "Hello, world!"
p!: () => ()
ただしPythonはこのようなときユニットではなくNone
を使う傾向があります。
Ergでの使い分けとしては、プロシージャなどではじめから意味のある値を返さないことが確定しているときは()
、要素の取得のように操作が失敗して何も得られない可能性があるときはNone
を返してください。
引数とタプル
実は、ErgのCallable
オブジェクトは全て1引数で1戻り値です。N個の引数を取るサブルーチンは、「N個の要素を持つタプル1つ」を引数として受け取っているだけだったのです。
# f x = ...は暗黙にf(x) = ...とみなされる
f x = x
assert f(1) == 1
f(1, 2, 3) # ArgumentError: f takes 1 positional argument but 3 were given
# 可変個の引数を受け取る
g x: Int, ...y: Int = y
assert (2, 3) == g 1, 2, 3
関数の型もこれで説明が付きます。
assert f in T: {(T,) -> T | T}
assert g in {(Int, ...(Int; N)) -> (Int; N) | N: Nat}
正確には、関数の入力はタプルではなく「デフォルト属性付きNamedタプル」です。これは関数の引数でだけ使える特殊なタプルで、レコードのように名前付けができ、デフォルト値を持つことができます。
f(x: Int, y=0) = x + y
f: (Int, y=Int) -> Int
f(x=0, y=1)
f(y=1, x=0)
f(x=0)
f(0)