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パッケージマネージャー
Ergは標準でパッケージマネージャーが付属しており、pack
サブコマンドで呼び出せる。
以下は典型的なオプションである。
erg pack init
: 現在のディレクトリをパッケージとして初期化する。package.er
ファイルやsrc
ディレクトリが生成される。app
と指定すると実行ファイルのパッケージ、lib
と指定するとライブラリのパッケージ、hybrid
を指定すると両方のパッケージとなる。--license
を指定すると自動でライセンスファイルを置いてくれる。erg pack build
: パッケージをビルドする。--release
をつけるとテストが実行され、最適化をする。成果物はbuild/debug
かbuild/release
に配置される。erg pack install
: パッケージをインストールする。ライブラリの場合は.erg/lib
にsrc
以下が置かれ、アプリケーションは.erg/app
にシェルスクリプトとして置かれる。--release
をつけると最適化をする。erg pack run
: パッケージをビルドしてアプリケーションを実行する(appパッケージのみ)。erg pack clean
: buildディレクトリの中身を削除します。erg pack test
: パッケージのテストを行う。詳しくはtest.mdを参照。erg pack publish
: パッケージを公開/リリースします。GitHubのアカウントと公開鍵が必要です。
なお、このドキュメントでは自前のパッケージを管理する際の方法を説明する。 外部パッケージをインストールしたり検索したりしたい場合はinstall.mdを参照。 また、Ergのパッケージシステムについてはpackage_system.mdを参照。
パッケージ全体の標準ディレクトリ構成(アプリケーションパッケージの場合)
/package # パッケージのルートディレクトリ
/build # ビルド結果を格納するディレクトリ
/debug # デバッグビルド時の成果物
/release # リリースビルド時の成果物
/doc # ドキュメント(さらに`en`, `ja`などのサブディレクトリに分けることで各国語対応可能)
/src # ソースコード
/main.er # main関数を定義するファイル
/tests # (ブラックボックス)テストファイルを格納するディレクトリ
/package.er # パッケージの設定を定義するファイル
package.er
erg pack init
すると以下のようなファイル、package.er
が生成される。package.er
にはパッケージの設定を記述する。
以下はpackage.er
の記述例である。
name = "example" # package name
author = "John Smith" # package author name
version = "0.1.0"
description = "An awesome package"
categories = ["cli"] # package categories
type = "app" # "app" or "lib"
license = "" # e.g. "MIT", "APACHE-2.0", "MIT OR Apache-2.0"
pre_build = "" # script filename to be executed before build
post_build = "" # script filename to be executed after build
dependencies = {
# The latest one is selected if the version is not specified
# If the version specification is omitted, the package manager automatically adds the version of the last successful build to the comments
foo = pack("foo") # [INFO] the last successfully built version: 1.2.1
# Packages can be renamed
bar1 = pack("bar", "1.*.*") # [INFO] the last successfully built version: 1.2.0
bar2 = pack("bar", "2.*.*") # [INFO] the last successfully built version: 2.0.0
baz = pack("baz", "1.1.0")
}
deprecated = False
successors = [] # alternative packages (when a package is deprecated)
セマンティックバージョニング
Ergのパッケージはセマンティックバージョニングに基づいてバージョンの指定を行います。
セマンティックバージョニングとは、大まかにはx.y.z
(x,y,zは0以上の整数)の書式で指定されるバージョニングです。
それぞれの数字の意味は以下のようになります。
- x: メジャーバージョン(互換性を破壊する更新を行うとき1上げる)
- y: マイナーバージョン(互換性のある更新(API追加・非推奨化など)を行うとき1上げる、バグ修正などはパッチバージョンアップで対応する)
- z: パッチバージョン(バグ修正・互換性を保つ軽微な変更を行うとき1上げる、互換性を破壊する深刻な修正はメジャーバージョンアップで対応する)
ただしバージョン0.*.*
の変更はデフォルトで常に互換性がありません。互換性を保ったままバージョンアップしたい場合は後ろに-compatible
と指定します(Erg独自ルール)。例えば、0.2.1
を互換性を保ったまま機能追加したい、すなわち0.3.0
にバージョンアップしたい場合は0.3.0-compatible
と指定します。またバグフィックスを行った場合は0.2.2-compatible
と指定します。
こうすると、そのバージョンは直前のバージョンと互換性があると見なされるようになります。
これは0.*.*
を1.0.0
にバージョンアップしたい場合でも使えます。すなわち、1.0.0-compatible
は直前のバージョン0.y.z
と互換性があります。
セマンティックバージョニングはロックファイルを生成する際非常に重要です。ロックファイルは依存パッケージの互換性を保つために生成されるファイルで、依存パッケージの新しいリリースがあっても明示的にアップデートしない限り古いパッケージに依存します。 ロックファイルは依存パッケージのあるパッケージを複数人で開発する際に便利です。また、依存パッケージがさらに依存するパッケージについて、互換性があるならばパッケージを使いまわすことができるので、ローカルストレージの節約にもなります。
Ergのパッケージマネージャは以上のルールを厳密に適用しており、ルールに抵触するパッケージ更新は拒絶されます。 Ergパッケージマネージャはバージョン管理システム(git等)と連携しており、パッケージのpublish時にコードの差分を検知し、バージョニングの正当性を検証します。 具体的に言うと、パッケージマネージャはAPIの型を見ます。型が古いバージョンのサブタイプになっていれば、変更は互換性があるとみなされます(これは完全な検証ではないことに注意してください。型的には互換でも意味論的に非互換な変更はあり得ます。これを判断するのは開発者の仕事です)。
さらにパッケージはリポジトリ全体がレジストリに登録されるため、開発者であってもパッケージマネージャを通さずにパッケージの更新をすることは出来ません。 また、パッケージは非推奨にはできても削除することはできません。
Appendix: セマンティックバージョニングの問題と、その対策
セマンティックバージョニングには既知の問題が(少なくとも)2つあります。
まず、セマンティックバージョニングは過大な制約を課す可能性があります。
セマンティックバージョニングでは、たった1つの非互換なAPI変更でパッケージ全体のメジャーバージョンが上がってしまいます。
こうなると、「新しいAPIを試したかったが、別の非互換なAPI変更に対処しなくてはならないのでバージョンアップを見送る」といったことが発生します。
もう一つ、セマンティックバージョニングは過大な約束をする可能性があります。
前項で述べたように、APIの「互換性ある変更」は理論的に証明できるものではありません。バージョン1.0.1
のパッケージがほしいと指定した場合、セマンティックバージョニングの観点では1.0.1
以上2.0.0
未満のパッケージ全てを代わりに使うことができます(1.0.0
は使えません。バグ修正が入ったからです)が、実際はパッケージ開発者の意図しないAPI利用によってビルドが成功しない可能性があります。
Ergではこの問題に対処するため、別のバージョンのパッケージを(リネームすることで)同時に利用することができるという方策を取っています。これによって、ver2のAPIを一部導入しながら、ver1のAPIも引き続き利用するといった事が可能になります。 さらに、あまり望ましい状態ではありませんが、ある特定のマイナーバージョンのAPIのみがバグなしに使えるといった場合にそれだけを残して次のバージョンへ進むことが可能です。
publish
publish
サブコマンドでパッケージの公開が可能です。公開にはGitHubアカウントが必要です。
パッケージはデフォルトでは(owner_name)/(package_name)
で登録されます。一定の条件(ダウンロード数、メンテナンスの頻度など)を満たすとオーナー名を省略したエイリアスを登録する申請が出来ます。
なおパッケージ名の大文字/小文字や_
, -
などの区切り文字は区別されません。