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技術的なFAQ
本項はErg言語を使用する上での技術的な質問に答えるものです。すなわち、WhatやWhichで始まる質問、Yes/Noで答えられる質問を載せています。
根本的な文法の決定経緯についてはこちらを、なぜこの言語を作ったのか、この機能はどのように実装されているのかなど、より大きな話題はこちらを参照してください。
Ergに例外機構はないのですか?
A: ありません。Ergでは代わりにResult
型を使います。なぜErgに例外機構がないのかはこちらを参照してください。
ErgにはTypeScriptのAnyに相当する型はないのですか?
A: ありません。すべてのオブジェクトは少なくともObject
クラスに属しますが、この型は最小限の属性を提供するのみの型で、Anyのように好き放題はできません。
Object
クラスはmatch
などによる動的検査を通し目的の型に変換して使用します。JavaなどのObject
と同じ類です。
Ergの世界では、TypeScriptのようにAPIの定義を辿ったらAnyだったという絶望・混沌は生まれないのです。
Never, {}, None, (), NotImplemented, Ellipsisは何が違うのですか?
A: Never
は「起こりえない」型です。実行時エラーを出すサブルーチンが、Never
(またはNever
の合併型)を戻り値型とします。これを検知するとプログラムはすぐさま停止します。Never
型は定義上すべての型のサブクラスでもありますが、Never
型オブジェクトは決してErgコード上に出現しませんし、生成もされません。{}
はNever
と等価です。
Ellipsis
は省略を表すオブジェクトで、Python由来です。
NotImplemented
もPython由来です。これは未実装を表すマーカーとして使われますが、Ergではエラーを出すtodo
関数の方を推奨します。
None
はNoneType
のインスタンスです。Option
型でよく使われます。
()
はユニット型であり、そのインスタンス自身でもあります。これはプロシージャの戻り値など「意味のない値」を返したいとき使われます。
なぜx = p!()
は有効なのにf() = p!()
はEffectErrorとなるのですか?
A: !
は副作用の産物につけるマーカーではなく、副作用を起こしうるオブジェクトに付けるマーカーだからです。
プロシージャp!
や可変型T!
は副作用を起こす可能性がありますが、例えばp!()
の戻り値がInt
型だった場合、それ自体はもう副作用を起こしません。
PythonのAPIを使用しようとしたとき、Pythonでは有効だったコードがErgでは型エラーになりました。これはどういうことですか?
A: ErgのAPIはなるべくPythonのAPIの仕様に忠実に型付けられていますが、どうしても表現しきれないケースもあります。 また、仕様上有効でも望ましくないと判断した入力(例えば、intを入力すべきところでfloatを入力してもよい仕様など)は、Erg開発チームの判断により型エラーとする可能性があります。
Tupleにはなぜコンストラクタ(__call__
)がないのですか?
Ergのタプルは長さがコンパイル時に決まっている必要があります。そのため、タプルを構築する手段はほぼリテラルのみです。
長さが実行まで不定の場合、代わりに不変配列(Array
)を使うことになります。Ergの不変配列はPythonのタプルとほぼ同じです。
arr = Array map(int, input!().split " ")
Pythonでは発生しなかった実行時エラーがErgでは発生しました。原因として何が考えられますか?
素朴に実装するとエラーとなる例としては以下のスクリプトがあります。
{main!; TestCase!} = pyimport "unittest"
Test! = Inherit TestCase!
Test!.
test_one self =
self.assertEqual 1, 1
main!()
基本的なunittestの使い方そのままであり、一見正しく見えますが、実行すると以下のようなエラーが出ます。
AttributeError: 'Test!' object has no attribute '_testMethodName'
エラーが発生した原因は、TestCaseの実行の仕組みにあります。
TestCase(を継承したクラス)が実行されるとき、実行するテストメソッドはtest_
で始まる必要があります。
test_one
はそれに従っているように見えますが、Ergは変数名に対して名前修飾(マングリング)を行います。
このせいでテストメソッドが認識されなくなっているのです。
マングリングを行わないようにするためには、''で囲む必要があります。
{main!; TestCase!} = pyimport "unittest"
Test! = Inherit TestCase!
Test!.
'test_one' self =
self.assertEqual 1, 1
main!()
今度は上手くいきます。
Erg特有のエラーが発生する場合は、名前修飾の影響などを疑ってみると良いでしょう。